所有者が認知症になると空き家が売れない?
放置空き家が増え続ける理由は様々です。一番大きな要因としては、売りたくても売れないとうことでしょう。空き家そのものに価値がなくなってしまい、立地も思わしくないことなども重なり、実需としての買い手が見つからず売却ができないという現実が、特に地方都市の郊外などで顕著になってきています。これらの空き家は、売却もできず、補修工事や草刈りなどのメンテナンスコスト、固定資産税などがかかるだけの“負”動産とも称される空き家です。
一方で、都会の好立地でも多くの空き家が存在します。「土地だけでも高く売れそうな立地なのに、どうして空き家にしているのだろう?」と思われたことはありませんか?
これらの空き家がそのままになっている理由は様々なのですが、実は売りたいけど売れない理由が多く存在するのはご存じでしょうか?その一つが「認知症」なのです。
症状の程度にもよりますが、空き家の所有者が認知症により意思能力を失ってしまった場合、所有者が行う法律行為(契約行為など)は無効となるため、空き家を売却すること(売買契約の締結)ができなくなってしまいます。共有名義の空き家の場合でも同じで、共有名義者の一方が意思能力を失ってしまうと売却はできません。
認知症による、いわゆる資産凍結により売却できない空き家が増加しています。
認知症による資産凍結対策として有効な「家族信託」とは
超高齢社会の日本では、今や65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると言われています。このような社会背景のもと、高齢者の財産管理の在り方が様々な場面で問われています。
そこで、最近注目を集めているのが「家族信託」です。
家族信託とは、簡単に言うと“家族による家族のための財産管理制度”です。家族信託という言葉は法律用語ではありませんが、信託という言葉は法律用語です。家族信託は信託法という法律に基づいて行われる財産管理の手法で、仕組みはそんなに難しいものではありません。
信託とは、財産も持つ人が(委託者)となり、信頼できる人(受託者)に財産を託して管理や処分などを任せ、託した財産から発生する収益を受け取る人(受益者)を決めておくというもので、この委託者が例えば父や母、受託者が息子や娘など、家族間で行うものを家族信託と言います。
家族信託の最大のメリットは、財産を持つ人の資産凍結リスクを防ぐことができるということです。例えば母親が委託者となり自宅の管理や処分を受託者として長男に任せておけば、万が一母親が認知症になっても、長男の判断で売却やリフォームなどが行えます。売却代金で親の施設への入居費用を捻出することも容易となります。
家族信託を利用していない場合は、所有者である母親が認知症で意思能力が無くなってしまうと、売却やリフォームを行うことができません。家族といえども所有者以外の人が売却などの契約行為を行うことはできないのです。
意思能力が無くなってしまった場合は、成年後見制度を利用するしか方法はありませんが、成年後見人が行う財産管理は最小限必要な範囲にとどまるため、柔軟な財産管理や積極的な財産運用はできません。自宅の売却にも家庭裁判所の許可が必要となります。
将来自宅が空き家になる(施設への入居や相続などにより)可能性のある方は、所有者である親の意思能力の有無に関わらず、自宅を受け継ぐ世代である子供たちが、子供たちの判断で自宅に関する様々な手続きができるようにしておくと良いでしょう。家族信託はそれを実現できる有効な手段の一つです。