2023年4月27日から、相続後、活用予定のない土地を国に返還できる「相続土地国庫貴族制度」が開始されました。今回のコラムでは、制度の概要や利用方法、費用、活用時のメリットや注意点などについて網羅的に解説します。
相続土地国庫帰属制度とは
相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺贈によって所有することになった土地(宅地・田畑・森林など)について、一定の条件を満たすことで国に返還できる制度のことです。遺贈とは、遺言によって指定された人が亡くなった方の財産を引き継ぐことをいいます。
相続したのはよいものの、現在住んでいる場所から離れていて管理できない、都市部から離れていて売却したり賃貸物件として貸したりといった使用方法も難しいといった場合に、相続土地国庫帰属制度は土地の処分方法として有効なものです。
相続土地国庫帰属制度ができた背景
相続土地国庫帰属制度は、管理されない土地が放置されることで、将来、「所有者不明土地」が発生することを予防する目的で設立されました。また、少子高齢化が進む日本では、管理されず放置されている家屋が増えていることも背景として挙げられます。
総務省が2024年4月30日に発表した「住宅・土地統計調査住宅数概数集計」によると、空き家数は約900万戸と過去最多で、2018年から約51万戸の増加、空き家率も13.8%と過去最高を記録しています。
空き家のうち、賃貸や売却、セカンドハウスなどとしても使用されていないものは「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」に区分されます。そのような空き家は約385万戸で、5年間で約37万戸増加しています。
以前は「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」のことを「その他の空き家」と呼んでいましたが、今回の調査から変更されています。
使用されていない空き家は放置されることが多く、倒壊の可能性や不法投棄場所になるなど、周囲に悪影響を及ぼすことがあり、いわゆる「空き家問題」となっています。
土地も空き家も、所有者が分からないことには、自治体も対応がスムーズにできません。これへの対策として2024年4月1日からは、相続した(遺贈含む)不動産の所有者を登記簿上に記載する「相続登記」が義務化されています。相続土地国庫帰属制度の設立と相続登記の義務化により、所有者不明の土地・家屋を減らす施策が進められています。なお、まだ相続登記していない土地であっても、相続土地国庫帰属制度に申請可能です。
参考:法務省 令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01toukei03_01000119.html
相続土地国庫帰属制度の利用条件
活用予定のない土地だからといって、あらゆる土地が国に引き取ってもらえるわけではありません。申請には条件があり、審査費用も1つの土地につき14,000円かかります。また、審査の結果引き取ってもらえることになっても、1つの土地につき20万円を目安とした負担金の支払いが必要です。
ここでは、申請の条件を紹介します。
申請できない土地
以下の条件に該当する土地は、そもそも申請ができません。
- 建物がある土地
- 抵当権などに設定されている土地
- 現在通路として使用されている土地
- 墓地や境内の土地
- 水道用地
- ため池として現在使用されている土地
- 境界が明らかでない土地
- 特定有害物質により汚染されている土地
基本的には引き取られたあとに大きなコストがかかったり、トラブルに発生したりする可能性がある土地は申請の対象外となっています。
申請できても、審査で非承認となる土地
また、申請はできても審査で承認されないものもあります。例えば、勾配が30度以上、高さが5メートル以上の崖がある土地、工作物や車両がある土地だと分かると、申請が承認されないことがあります。
また、定期的に伐採が必要になる樹木や放置すると倒木する恐れがある樹木がある場合や、産業廃棄物や建築資材、井戸などの土地にあるものを除去しなければ管理できない土地だと審査で発覚した場合も申請が承認されません。
申請できる人
相続土地国庫帰属制度に申請するには、当然、相続した土地の所有者である必要があります。申請が可能なのは以下の状況にある人です。
- 相続・遺贈した土地を単独所有している
親の子が自分ひとりなどの理由で、所有権のすべてを自分が取得した場合は、申請者になれます。
また、自分に兄弟がいて、持ち分1/2ずつとなった場合などでも、兄弟が全員亡くなった際は、自分の持ち分であるものについては申請可能です。 - 相続した土地を共有する場合は、共有者全員で申請する
親が持つ1つの土地を複数の子が共有で相続した場合は、共有者全員であれば申請できます。相続した自分の持ち分だけについて申請することはできません。
第三者から土地を親と子のひとりが共同購入したのち、親が亡くなった場合は、親の持ち分については子に相続されます。この際、子が複数いた場合は共同購入した子だけでなく親の持ち分について相続した全員(子の兄弟)と共同で申請する必要があります。
第三者から土地を親と法人が共同購入したのち、親が亡くなった場合は、親の持ち分を相続した子と法人の共同であれば申請可能です。
相続土地国庫帰属制度の申請にかかる費用
相続土地国庫帰属制度の申請には、審査手数料と負担金の2つの費用が発生します。審査手数料は土地1つにつき14,000円で、申請後に取り下げをした場合や審査を経て不承認となった場合でも返還されません。 また、隣り合った土地であっても複数の土地を1つの申請にまとめることはできず、それぞれの土地ごとに14,000円が必要です。
審査に通過すると、負担金の支払いが発生します。負担金は、元々の土地の所有者が土地の管理の負担を免れる程度に応じて管理費用の一部を国に支払うという考えで徴収されます。負担金は管理に必要な10年分の費用を考慮して設定されており、宅地や田畑などを国に引き取ってもらう場合は面積にかかわらず一律20万円かかります。負担金を支払うのは一度だけで、10年ごとに支払いが必要になるわけではありません。
ただし、都市計画法の市街化区域・用途地域に指定されている場合は、独自の計算方法が設定されており、負担金が高額になります。また、森林の場合は面積に応じて負担金が異なります。
審査手数料と異なり、負担金については隣接する土地が同じ区分(宅地と宅地、田と畑など)の場合は、一つの土地とみなして負担金の合算が可能です。ただし、宅地同士の場合は、両方が市街化区域内ないし市街化区域外である必要があります。
負担金の詳しい計算については、自動計算シートが法務省から公開されていますので、以下のリンクからご確認ください。
参考:法務省 相続土地国庫帰属制度の負担金
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html
相続土地国庫帰属制度の申請手続きの流れ
申請は大きく分けて3つのステップで構成されています。
1. 法務局へ相談
申請できる土地には条件があるので、まずは土地の状況が分かる資料や写真を持って法務局へ相談をします。土地が所在する場所の管轄法務局で相談するのが基本ですが、土地が遠方にある場合などは、相談は近くの法務局でも可能です。支局や出張所では相談はできませんので注意してください。
相談には事前予約が必要です。予約をしない場合には制度の概要の説明しか受けられず、個別の土地についての相談ができません。予約はインターネット上の「法務局手続案内予約サービス」から可能です。 また、相談自体は申請者本人でなくても、家族や親族が代わりに受けられます。
相談時には、以下のような土地についての資料をできるだけ多く持っていくことが推奨されています。
- 登記事項証明書又は登記簿謄本
- 法務局で取得した地図又は公図
- 法務局で取得した地積測量図
- その他土地の測量図面
- 土地の現況・全体が分かる画像や写真
- 市町村から届く固定資産税納税通知書
2. 申請書類の作成・提出
相談の結果、申請が可能であるとなれば、法務局の窓口または郵送で必要書類を提出します。
この際に審査手数料に相当する収入印紙を貼って支払います。
申請時に必要となる書類は以下の通りです。
- <自分で作成する書類>
-
- 申請書
- 申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
- 申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真
- 申請に係る土地の形状を明らかにする写真
- <用意する書類>
-
- 承認申請者の印鑑証明書
- 固定資産税評価証明書(任意)
- 申請土地の境界等に関する資料(あれば)
- 申請土地にたどり着くことが難しい場合は現地案内図(任意)
- その他相談時に提出を求められた資料
申請は本人が行うことが必須ですが、申請書類の作成業務については、弁護士、司法書士、行政書士に限り、依頼しても問題ありません。
3. 負担金の納付
審査により、国への引き渡しが可能であると認められると、通知が届きます。それに応じて負担金を支払うと手続きが完了します。負担金には支払い期日があり、負担金の通知が到達した日の翌日から30日以内に支払う必要があります。期日を過ぎると、また最初から申請をし直すことになるので注意してください。審査にかかる期間は8か月が目安です。
手続きが完了したら、元の所有者から国へ所有権を移す所有権移転登記は国が行うので申請者は何もする必要はありません。また、所有権移転登記後は固定資産税の支払いもなくなります。ただし、12月に申請が承認された場合は、国への所有権移転登記が完了するのが翌年の1月になることがあります。その際は、その年の固定資産税は申請者が支払うことになります。
相続土地国庫帰属制度を利用するメリットと注意点
制度を利用する上での最大のデメリットは、やはり費用がかかることでしょう。また、あらゆる土地が引き取ってもらえるわけではない点、審査には時間がかかる点もデメリットとなります。
一方でメリットは、不用な土地を手放せる点が挙げられます。立地のよい場所であれば売却やアパートを建てて賃貸物件とするなどの選択肢がありますが、立地や広さの関係から、利活用も売却も難しい土地であれば、所有するだけで固定資産税が発生しますし、一定の管理も必要になります。また、自分の次に相続する相手がいないといった場合にも有効な手段となるでしょう。
最新の申請・帰属件数データ
2023年4月27日から始まった相続土地国庫帰属制度の、これまでの申請件数や帰属件数は以下の通りです(2024年9月30日現在)。
- 申請件数
2,697件(うち田畑998件、宅地967件、山林432件、その他300件) - 帰属件数
868件(田畑280件、宅地345件、山林33件、その他210件)
申請が却下されたものの理由として一番多いのは必要な添付書類がなかったというものです。これは郵便での申請だと起こりやすいものですので、相談だけでなく、提出も可能な限り窓口で行うとよいでしょう。
参考:法務省 相続土地国庫帰属制度の統計
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html
活用予定のない土地は相続土地国庫帰属制度の利用を検討しよう
一定の条件や費用がかかる点では注意が必要ですが、一度承認されれば永続して不用な土地を手放せる相続土地国庫帰属制度は、場合によって大きなメリットがあります。管理しきれない土地や活用できない土地がある場合だけでなく、土地付き戸建てを相続して、倒壊の恐れから建物を取り壊して更地にしたことで固定資産税の優遇が受けられなくなり、費用負担が大きい、といった場合にも制度の利用を検討する価値があるでしょう。
土地の相続は、日本人の多くが遅かれ早かれ経験することです。制度の存在を知っておくだけでも、将来的な選択肢が広がるはずです。今回のコラムがお役に立てば幸いです。
本コラムの内容は公開・更新時点の情報に基づいて作成されたものです。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。