相続した空き家を売却して処分したい、と考える方は多いでしょう。しかし、空き家はさまざまな条件によって、売却しづらいことも珍しくありません。今回のコラムでは、空き家が売れない理由について解説します。
売れない空き家の理由その1:売り出し価格が高い
不動産売却をする際、「なるべく高く売ろう」と考えるものですが、相場よりも高い不動産は買い手がつきません。買い手がつかないために値下げをすると、「一度値下げされたから、また下がるかもしれない」という心理が働いて買い渋りが起き、結果として相場より安く売却せざるを得なくなってしまうことも珍しくありません。空き家の売却にあたっては、類似物件と比較する、複数の不動産会社に査定を依頼するなどして、相場を把握することから始めましょう。
売れない空き家の理由その2:立地が悪い
空き家に限らず、不動産を売却する際には、立地が非常に重要になります。適度な広さや使い勝手のよい不動産であっても、その地域で物件を探す人がいなければ売却にはつながらないからです。具体的には過疎化が進み、人口減少が著しい地域、駅から遠いなど交通の便が悪い地域、病院やスーパー、学校など生活に必要などから離れている地域は、立地が悪いと言えます。立地が悪い場所に建つ空き家は、買い手が見つかるまでに時間がかかるでしょう。また、都市部にあっても治安上の問題がある地域や大きな道路と接しているなど騒音問題が発生しやすい場所にある空き家や、お墓や火葬場などの心理的に避けたくなる場所に近い空き家も立地が良いとは言えず、買い手は見つかりにくくなります。
売れない空き家の理由その3:築年数が経っていて古い
空き家が売れない大きな理由として、建物そのものの老朽化があります。リフォームをしないと住めないような空き家は、やはり買い手がつきづらくなります。目安としては築年数が20年以上経っている場合は、大切に使っていても見えないところで傷みがすすんでいるものです。また、昭和56年(1981年)以前に建てられた物件は、現在の新耐震基準を満たしていません。
このことは、耐震上だけでの問題ではありません。新耐震基準を満たしていない建物(旧耐震基準の建物)は、所得税や住民税を抑えられる「住宅ローン控除」が受けられません。つまり、買い手側にとって不利な建物となり、購入希望者が見つかりにくくなります。旧耐震基準の空き家は少なくとも築44年以上経っています。老朽化が進んでいることからも、新耐震基準を満たすためのリフォーム工事は大規模なものとなるため、売主の費用負担は大きくなります。
また、空き家が仮に売却できたとしても、利益が出た場合、売主には所得税の支払いが必要になります。空き家の売却には、譲渡所得から最大3,000万円が控除できる「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」という、税制優遇がありますが、旧耐震基準のまま売却すると適用されません。特例の適用のためには、新耐震基準を満たすようにリフォームして売却する必要があります。2024年からは、買い手側が空き家を購入した年の翌年2月15日までに耐震リフォームが行っても特例が適用されるようになっています。このことは売主側のメリットとなりますが、買い手側のメリットはならないため、いずれにしても旧耐震基準の空き家が売れにくいことに変わりはありません。
売れない空き家の理由その4:違反建築物である
違反建築物とは、建築基準法などの法律に則っていない建築物のことです。具体的には、建ぺい率違反や容積率の違反、そして用途違反といってそれぞれの地域ごとに定められている、建てられる建築物の用途の種類を違反しているなどが挙げられます。違反建築物は住宅ローンを組めませんので、買い手は見つからないでしょう。また、建てられた当時は建築基準法に則っていたものの、法改正によって建ぺい率や容積率、高さ制限などの上限が変更されて、法律に当てはまらなくなるケースがあります。この場合、購入者はそのまま住むことはできますが、住宅ローンは基本的に組めませんし、増築や建て替え時には法律を満たすようにする必要があります。
売れない空き家の理由その5:再建築不可物件である
再建築とは、既存の建物を解体して、その土地に新しい建物を建てることをいいます。再建築不可物件となる主な理由は、接道義務違反です。建築基準法では道路の幅(幅員:ふくいん)が4m以上(区域によっては6m以上)を「道路」と定義しています。そして、道路に対して敷地が2m以上接していることが確保できないと敷地内に建物を建築できないルールとなっています。このことにより、接道義務違反の再建築不可物件は、建て替えができません。建物を解体して新築すること自体が、新たに建てようとする建物の大きさにかかわらずできないわけです。再建築不可物件の購入には住宅ローンも利用できません。これらの理由から、ある意味では違反建築物よりも買い手がつきづらくなります
売れない空き家の理由その6:登記上の問題が残っている
空き家を売却する際には「自身の所有物であること」「住宅ローンを完済していること」の2つが条件となります。これらは登記所(法務局)で登記をすることによって公的に証明できます。
空き家を相続して、自身が所有者になったのなら、不動産の名義を相続人に変更するための登記「相続登記」を行うことで、空き家が自身の所有物であると証明できます。
親が住んでいた家と土地は、当時住宅ローンを組んで購入されていることがほとんどです。住宅ローンを金融機関で組む際は、購入する不動産を担保にお金を借りています。不動産を担保にする権利を抵当権といい、これは住宅ローンを完済するまでは金融機関が有しています。住宅ローンの完済後は、不動産を担保から外す「抵当権抹消登記」を行うことで、住宅ローンの完済が証明できます。「抵当権抹消登記」をおこなっていなくても売却は可能ですが、抵当権付きの物件を買うことはリスクが大きく、買主がなかなか現れませんし、金融機関も抵当権のついた物件に融資をすることはありません。
相続登記は、2024年4月から義務化されています。登記を怠ると過料が発生するので必ず実施してください。相続登記も抵当権抹消登記も個人で行えますが、何代にもわたって相続登記をしていない場合はさかのぼって行うことになり、必要書類集めなどに時間と手間がかかります。そのような場合は抵当権抹消登記とあわせて司法書士に依頼するとよいでしょう。
売れない空き家の理由その7:所有者に意思能力がない
親の入院や介護施設の入所をきっかけに、親が住んでいた家(空き家)を売却したいと考える方は多くいます。しかし、相続や贈与をしていないのなら、あくまで不動産の所有権は親にあるので、子どもであっても勝手に売却できません。しかし、親が認知症になり、その症状が進行している場合は、意思能力がないと判断され、不動産の売買契約を含めた契約行為ができません。たとえ署名ができても無効になってしまいます。
親に代わって不動産を売却する可能性が将来ある場合は、親が元気なうちに「家族信託」を利用しておく方法があります。家族信託とは、委託者(親)と受託者(子)の間で「信託契約」を締結することをいいます。信託契約という名の通り、契約の一種なので、親が認知症などで意思能力がなければ家族信託は結べません。
家族信託では、契約締結によって効力が発生し、信託する財産(不動産や金銭等)の管理・処分権限を受託者(子)に設定できます。家族信託を結ぶと、子は親の代わりに管理を任された不動産(空き家等)の売却などを自由に行えるようになります。家族信託はあくまで管理や処分を任せるだけのものなので、子が家賃収入や売却益を得るものでありません。信託された財産から生じる利益は受益者(通常は委託者と同じ親がなる)のものとなります。
家族信託を結ぶことで、親の入院費用や施設入所の費用のために、親の自宅を売却できます。家族信託は任せる財産や子に与える権限、家族信託が終了したときの残余財産の行先などを柔軟に決められる点にメリットがあります。家族信託で定めた内容が問題なく効力を発揮できるよう、書類の作成などの相談は司法書士などの専門家に行うとよいでしょう。
家族信託と似た制度に、成年後見制度があります。こちらは親が認知症になり、意思能力を失ってからはじめて効力を発揮するものです。成年後見制度は親の財産の必要最低限の維持・管理と身上保護(生活や医療等に関する契約等の手続きなどを行うこと)を目的とするものなので、親が所有する不動産の売却は難しい(親の居住用不動産の売却は裁判所の許可が必要)ものの、親が介護施設に入所したり、入院したりする際に必要となる、身の回りの手続きを親の代わりに行える点で家族信託にはないメリットがあります。状況に応じて、家族信託と成年後見制度の両方を利用するとよいでしょう。成年後見制度の申立ては家庭裁判所に行います。
成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」があり、前者は家庭裁判所によって後見人が選ばれるもので、子以外の弁護士などが選ばれる傾向にあります。確実に子を後見人としたい場合には任意後見制度を利用する必要があります。任意後見制度も、家族信託同様に契約(任意後見契約)の締結が必要となるため、親に意思能力がある段階でないと取り組めない点には注意が必要です。なお、任意後見制度は、親が認知症になった際に後見監督人の選任の申立てを家庭裁判所に行い、後見監督人が選任されてはじめて効力が発生します。
売れない空き家のその8:近隣トラブルが発生する恐れがある
土地を売却する際には「境界明示義務」があります。これは、売主は買い手に対して、売却時には土地の境界を明確しなくてはならないというものです。土地の境界を示す測量図や地面に打たれる境界票がなく、土地の境界が明確でないまま、売買してしまうと、買い手と隣地の所有者でトラブルになる可能性があります。境界明示義務を怠って売却した場合は、売主に損害賠償責任が生じることもあります。
土地の境界は勝手に決められるものではないので、土地家屋調査士などの有資格者とその土地の所有者(売主)、隣地の所有者が立ち会って行われます。隣地の所有者に立会の協力が得られなければ、将来的にトラブルに発生する可能性は高く、あえてそのような土地を購入したいという人は現れないでしょう。
空き家を売るなら早めの対策を
空き家が売れない理由としては価格・立地・老朽化・法律上の問題など、さまざまなものがあります。違反建築物や再建築不可物件の場合は、更地にして土地として売ることも選択肢になるでしょう。しかし、条件が悪い空き家でも、需要がまったくないわけではありません。適切な管理を続けて、時間をかけて買い手を探すことに努めてください。一方で、親が認知症になった場合など、あらかじめ対処しておかなければどうにもならないものもあります。空き家の相続は、早かれ遅かれ多くの人が経験することです。なるべく早い段階での対応を始めることをご検討ください。
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