亡くなった親が残した実家を相続したにもかかわらず、適切な管理をせず廃墟化していく空き家の数が全国的に増加し、大きな社会問題となっています。築年数が経過し、再利用や売却のあてがない、管理するにも解体するにも費用がかかるといった理由で、相続した財産を所有する権利を一切放棄する法的な手続き(相続放棄)を検討している方もいらっしゃるようです。 しかし、原則として相続開始から3カ月以内に申請をしなければならず、大変難易度の高い手続きも必要となっているため、注意が必要です。※空き家の無料相談窓口「みちしるべ」はこちら
そもそも相続放棄とは?
相続放棄とは、亡くなった親などが残した一切の財産を引き継がないことを言います。相続を放棄するには、親が死亡するなどの理由により、自分が相続人になったと知ってから3カ月以内に、家庭裁判所に対して「相続放棄申述書」と必要書類(戸籍謄本、住民票など)を提出し、「相続放棄申述受理通知」を受けなければなりません。
この期間内に相続放棄を決められない場合は、相続放棄のための申述期間の延長を申請することもできますが、何も行わなければ自動的に相続が行われたものと見なされます。
相続放棄の申請が受理されると、相続に一切関わることができなくなります。相続放棄は、プラスの財産(売却できる可能性のある不動産や預貯金など)よりも、マイナスの財産(負債や売掛金など)の方が上回る場合に、検討される方が多いでしょう。
相続人全員が不動産を相続放棄するとどうなる?
民法239条第2項では、「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」としています。つまり、不動産を相続する権利のある相続人(被相続人の子、親、兄弟姉妹)全員が、被相続人が所有していた実家などの不動産の相続を放棄すると、その不動産は国に継承されるのです。
ただし、不動産を国庫に帰属させる手続きを行うには、弁護士や司法書士などの第3者を「相続財産管理人」とする申請を行い受理された後、その不動産に相続人がいないことを法律的に確定させなければなりません。
相続放棄をすると空き家の管理義務はなくなる?
[旧民法第940条1項]
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
[改正後民法第940条1項]施行日│令和5年4月1日
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
相続放棄後の空き家の管理責任を謳った法律がない中、相続放棄される空き家の増加に伴って、一部の自治体が(旧)民法940条1項を根拠に相続放棄をした者に対して管理責任を追及する動きがありました。しかし、平成27年12月25日の国土交通省による都道府県・市区町村宛ての通達(回答)によると、『民法第940条義務はあくまで「相続人間のものであり、第三者一般に対する義務ではなく、「最後に相続を放棄した者」については、民法第940条第1項により義務付けられた範囲以上の努力義務を空家対策特措法上負うことはないと考えられる。」』とされており、『「最後に相続を放棄した者」は市町村長による助言・指導又は勧告の名宛人にはなるものの、必要な措置を講ずる権原がないことから、助言・指導又は勧告を講ずる実質的な意味がない)と考えられます。また、「必要な措置」を行う権原がないことは空家対策特措法第14条第3項の「正当な理由」に該当することから、そのような者に対して市町 村長は当該必要な措置を命ずることはできないと考えられます。』としています。
また、令和5年4月1日施行改正民法では、相続放棄者の管理義務や責任を明らかにする観点から、上記の通りより分かり易い条文へと改められ、現に相続放棄した相続財産を占有していない者については、その保存義務(努力義務)は不要であることが明確となりました。