相続などで取得した空き家が管理できず、放火などで火災に至り、周囲に延焼した場合、空き家の所有者に損害賠償責任が発生する可能性があります。
今回のコラムでは、空き家を管理する際に知っておきたいリスクとして、空き家と火災の関係性、管理する上での注意点を述べていきます。
空き家と火災の関係
適切に管理されていない空き家は、放火のターゲットとされやすい傾向にあります。草木が生い茂っていたり、ポストからチラシがあふれていたりすると、人の出入りがないことが外部からも分かります。そのような空き家は放火されやすくなるため、空き家を所有する際は定期的な訪問をして適切に管理することが重要です。
消防庁の調査によれば、令和4年中の放火による出火件数は2,242件で全火災の6.2%で、これに放火の疑いも加えると合計で3,710件となり、全火災の10.2%となります。放火による火災は減少傾向にあるものの、引き続き注意が必要です。
また火災の原因として一番多いのは、タバコです。放置された空き家はタバコのポイ捨て場所になることもあり、枯れた草に引火して火事になってしまうケースもあります。
放火やタバコ以外にも、ガス漏れや漏電によって火災につながるケースもあります。さまざまなケースに備えて、所有者には適切な空き家管理が求められます。
参考:総務省消防庁 令和4年版 消防白書
https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r4/chapter1/section1/para1/10105.html
空き家は火災保険料が高くなる
人が住んでいなくても火災が発生する可能性がある以上、空き家でも火災保険に加入することをおすすめします。亡くなった親が住んでいた家などが空き家になっている場合、以前の火災保険にそのまま加入し続けていることがありますが、空き家は「一般物件」という扱いになり、住宅用の火災保険とは別のものに加入する必要があります。そのため、以前の火災保険が、空き家にも対応しているものでなければ、たとえ加入していても火災の際に補償が受けられない可能性がゼロではありません。現在の火災保険が空き家にも対応しているかどうかは、保険会社のカスタマーセンターで確認するとよいでしょう。保険代理店の場合は、正確な情報が得られない恐れがあるので、ご注意ください。
空き家は、人が住んでおらず、放火のリスクが高いことなどから、火災保険料は住宅用の火災保険よりも通常は割高になります。
空き家が火事になったら所有者の責任になる?
放火や漏電などで所有する空き家が火事になった場合、その責任の所在は所有者にあるのかは気になるところでしょう。火災の際の責任の所在については「失火責任法」で定められています。
例えば、火災によって自宅や空き家が燃えてしまい、その火が隣の家、さらにその隣の家と広がっていったとします。その際にあらゆる延焼に対して出火元の建物の所有者が補償をするのは、賠償能力をはるかに超えているとされ、所有者には賠償責任はないと定められています。つまり、空き家が火事になり隣家に延焼したとしても、所有者には隣家についての責任は問われないのが基本となります。
これは火災保険の考え方も同様です。火災保険は火災による自宅の損害を補償するものです。延焼によって火災にあった隣家への補償は、隣家の所有者が加入している火災保険でまかなうというのが基本です。延焼による補償も行いたい場合には、オプションとして類焼損害補償特約や失火見舞費用補償特約といった特約をつける必要があります。
重過失と判断されると賠償責任が発生する可能性がある
失火責任法により、隣家などへの延焼については、損害賠償責任は所有者に問われません。しかし、それは重過失(重大な過失)が所有者にない場合です。重過失が所有者にあると判断されると、賠償責任を負うことになります。
重過失は、火災が起きるリスクを知っておきながら対策をしていない場合に該当する可能性があります。例えば、石油ストーブの火がついたまま給油をしたり、ガスコンロでてんぷら油を火にかけたまま外出したり、寝タバコが常態化していて火の始末が杜撰であったりした場合は、重過失と判断されやすいでしょう。
これは、放火のような他者が故意に起こした火災でも同様です。後述する空き家に関する法律「空家等対策に関する特別措置法(第5条)」では、空き家所有者の責務として空き家の適切な管理が謳われていることからも、「空き家を放置していて容易に侵入しやすい状況にあった」、「燃えやすいゴミが散乱しているなど放火による火災を起こしやすい状況を放置した」、「自治体からの度重なる指導や助言を無視していた」といった判断がなされれば重過失とみなされ、損害賠償責任が発生するかもしれません。
損害賠償の金額がどの程度になるのかは、公益財団法人日本住宅総合センターが発表しているモデルケースが参考になります。
想定ケースは火災による延焼で、築20年の隣接家屋の全焼、居住していた夫婦2人(夫74歳・妻69歳)が死亡する事故となった場合です。このケースだと、住宅や家財といった物件の損害が合計で1,315万円、慰謝料や葬儀費用といった人的損害が5,060万円で、損害金額の合計は6,375万円となっています。
仮にこのケースで、自身に重過失が認められれば、同様の損害賠償をすることになるわけです。
参考:公益財団法人日本住宅総合センター 空き家発生による外部不経済の実態損害額の試算に係る調査
https://www.hrf.or.jp/webreport/pdf-report/pdf-report_02.html
空家等対策に関する特別措置法の影響で、空き家の放置は重過失につながるかも
近年の放置空き家が増加する問題に対して、2015年から空家等対策特別措置法が施行されました。空家等対策特別措置法は、空き家に対して適切な管理を促す目的で設けられたものです。倒壊の恐れがあったり、不法投棄場所となっていたりなどして、周辺環境に著しく悪影響を及ぼす空き家を「特定空き家」と指定し、環境の是正についての注意や勧告、命令を無視すると最終的には行政代執行され、取り壊しがされます。
そして、2023年からは、現状のまま放置していれば特定空き家に発展する空き家を「管理不全空き家」と認定し、特定空き家同様の処置が行える法改正が行われました。これらのことからも、放置空き家に対して適切な管理を求める動きは厳しくなっていることが分かります。空家等対策特別措置法の施行、強化から、放置空き家からの火災に対する所有者の責任は大きくなり、重過失と認められるケースも増えてくることが予想されます。
所有する空き家が自宅から遠方で適切に管理できない、売却に出しているがなかなか反応がないといった場合には、空き家の管理を業者に委託するという手段も検討してください。建物の換気や通水などの内部の管理も依頼できる業者や、定期的な管理レポートを共有してくれる業者であれば、安心して管理が任せられるでしょう。使用しない空き家は傷むのが早いので、今後の活用方法が決まっていないという場合でも、まずは管理をどうするか決めることが重要です。ぜひ業者への委託も検討してください。
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